前回の記事で掲棋とそのルールについて紹介しました。
そこで今回からはこの掲棋の戦略面について解説していきます。
まずは基本的戦略について見ていきましょう!
強い駒(特に車)を早く出す
掲棋において重要なのが、裏返っている駒の中からできるだけ早く強い駒を表にすることです。特に駒の基本的価値はシャンチー同様なので、掲棋においても「車」が最強の駒となり、「砲」「馬」がこれに続きます。こうした駒を序盤で早く引き当てることが出来ると、その後の展開を優位に進めることが出来ます。
例として下の画像は私の実戦(私は黒)ですが、最初の数手で大きく明暗が分かれました。
黒は3手全て卒である一方、相手は車と2枚の砲が出ています。
黒もまだ幸い駒を取られていないので挽回の余地はありますが、当面の間は盤上の主導権を完全に紅が握る苦しい展開です。
ただこればかりは運の要素がかなり強いので、なかなか難しいところです。
そこで戦略としては、まだ強い駒が表になっていない(あるけど少ない)場合には、表になった駒を動かすのではなく、積極的に裏返った駒を表に返す手を選ぶようにしましょう。
相手の裏の駒を取る&自分の裏の駒を取られない
先ほどの「強い駒を早く出す」ということから繋がるのですが、表になった強い駒が盤上にあると必然的に相手の駒を取るチャンスが増えます。特に相手の裏になった駒を取った場合は、自分のみがその駒の正体を知ることが出来ます。
そのためその場合には単に駒得というだけでなく、情報面でも優位に立つことができ、その後の展開を優位に進めることができるのです。
逆に裏になった駒を取られた側としては、「兵を取られたかもしれないし、車を取られたかもしれない」というように自分の戦力を正しく見積もることが出来ないため、精度の高い戦略を立てることが難しくなります。
そうしたことから、相手の裏の駒を取ること、そして自分の裏の駒をなるべく取られないようにするということは掲棋を優位に進める上で非常に重要です。
常に戦力分析を欠かさない
掲棋では常に戦力分析をしながら戦うことが重要です。
これは駒の配置の良し悪しといった面ももちろんあるのですが、それよりも駒の物質的な量が大事になってきます。
つまり今自分には表と裏合わせて車が何枚あるのか、表は何枚か、裏は何枚か、相手はどうかということを常に意識してなければなりません(この場合裏の車は初期配置の車の位置にあるものではなく、まだ表になっていない車という意味)。
また自分の裏になった駒が取られている場合には、既に表になった駒から考えてそれが何である可能性が高いかを計算し、いくつかのシナリオを想定する必要もあります。
これにより今どちらが優勢なのかを判断し、リスクを取って攻めるか着実な手を指すかなど方針を決めることができるのです。
なんだかとても難しそうなことを書いてしまいましたが、限られた時間で全ての駒について考えるのは大変ですし疲れますよね。
なので基本的には重要な駒である自分と相手の「車」「砲」「馬」についてどちらの戦力が高いのかを常に意識して考えておくようにしましょう。
カギとなる駒は敢えて表にしない
掲棋では、状況次第で敢えて裏のままにしておいた方が良い場合というのが出てきます。
その中でも経験上特に初期配置で「車」と「士」の位置にある駒はなるべく動かさないほうが良いです。
まず車の位置にある駒ですが、これは動かして表にした時に車以外であればどの駒になっても裏の状態より弱体化してしまいます。これではあまり積極的に動かすメリットがないですよね。
また掲棋では表になった車と帥による肋道や側面からの攻撃が脅威になることが多いです。
そのとき有力なディフェンダーとして活躍するのが車の位置にある裏の状態の駒で、これがないと受けが利かず簡単に詰んでしまうことも珍しくありません。
よって不用意に車の位置にある裏の駒を動かすのは止めましょう。
また士の位置にある駒ですが、これを動かすのはギャンブル性が高いです。というのも表にしたときに車や砲のように動きの良い駒やシャンチーと同じ士であれば問題はないですが、最も数が多く可能性の高い兵が出てしまった場合などは守りがとても大変になります。
帥の上部への逃げ道を塞いでしまうだけでなく、側面からの車や士角馬など危険な筋が多く生じてしまうので、それらを全てケアしないといけないからです。
兵を一つ進めて帥の上部に空間を空ければ状況は大分改善しますが、この一手は士を動かしたことにより生じた無駄な一手ですし、兵の上に駒がいる場合などはこうした改善もできず非常に危険なまま戦わざるを得なくなってしまいます。
そうしたことから士の位置にある裏の駒も不用意に動かさないほうが良いですし、仮に中央を攻められた場合には相の位置にある駒を中央に上げて対応したほうが良いでしょう。
下の画像は一例です。
黒は士を上げたところ表が卒だったため、守りが弱体化してしまいました。
紅はその弱点をつき車で側面から攻撃を図りますが、黒の左下隅の初期配置の車が守りの要として良い役割を果たしています。もし仮にこの駒が既に動いていていなかった場合、黒は車三進三とされると簡単に詰んでしまいます。
うっかりミスをしない
これまで色々書いてきましたが、なんだかんだうっかりミスをしないというのが単純かつ最重要かもしれません。
というのも、掲棋の場合は普通のシャンチーじゃあり得ない動きが多いため、中級者以上でも「ただでうっかり車を取られた」なんてことが結構起こるんです。
始めたばかりの慣れていない時は仕方ないですが、ある程度慣れたあと掲棋で勝とうと思ったらうっかりミスを減らすのは必須ですね。
また相手のうっかりで生まれたチャンスを逃さないというのも重要です。
私自身も「やばい、ミスった」と思ったけど相手も気づかず助かったというのが結構あります。
とりわけ油断したときにミスが生まれやすいので、勝つまでは気を抜かないようにしましょう。
こちらも最後に例として私の実戦(私が黒)を紹介します。
局面は中局で手番は紅、ここまでにお互いが取った駒などを総合的に考えると形勢はほぼ互角でした。
しかし相手がここで車二平四と指したのです。
黒の弱点である肋道から攻撃しようという狙いですが、しかしここには象が利いていました。
よって象8退6とただで車を取って勝負ありです。
相手は諦めきれず粘りましたが、さすがに挽回できず私の勝ちとなりました。
それでは今回はここまでとし、次回は駒別の解説をしていきます。