シャンチーにおける逆算の重要性

シャンチーにおける逆算

何か物事を考えるとき、現在を基準として今後どうするかを考える順算(あまり聞かない言葉ですが)とゴールを基準として今どうするかを考える逆算という2つの方法があります。

例えば「英語が得意だから通訳になろう」というのが順算の考え方で、「将来は通訳になりたいから今英語を勉強しよう」というのが逆算の考え方です。

順算と逆算のどちらの考え方が有効かは状況によっても変わりますし、片方だけでなくどちらも有効な場合もあるでしょう。

ではシャンチーにおいてはどうでしょうか?

目的はもちろん「勝つこと」ですが、最初から勝ちの局面がイメージできる訳ではありません。よって現在の局面を基準にして、一生懸命良い手を考えることになります。

これはまさしく順算の考え方です。

ただ順算が全てかというとそうではありません。実はシャンチーは順算だけでなく逆算の力も同じくらい大事なゲームなのです。

どういうことかというと、シャンチーは取った駒を使えないゲームなので、ゲームが進行するにつれて盤上のコマ数が減っていきます。そしてある程度以上減ってくると、この駒とこの駒の勝負は必勝というように具体的な手順を考える前に結論が出る場合があるんです。

これがこのサイトでも紹介している「実用残局」というもので、この実用残局の局面にいかに持ち込めるかを考えるのがシャンチーにおける逆算になります。

とはいえどんな対局でも実用残局を意識した逆算が必要かというとそんなことはなく、駒が減る前に相手の王様を詰ましてしまえば逆算の必要はありません

実際の対局を見ると、結構な高い割合で実用残局まで進む前にどちらかが詰まされて決着がついています。

そのため極端なことを言えば、逆算の力が全くなくてもそこそこ強くなれてしまうんです。

しかし私が普段色々な対局を見ている中で、やはり強いプレイヤーになればなるほど逆算の力が高くなっていくなと実感しています。また棋力の伸びや棋力の限界値も逆算を意識できるかどうかで大きく変わるなと感じています。

逆算の重要性を伝えるのに言葉だけでは分かりにくいと思うので、実際にプロの実戦から考えて見ましょう。

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トッププロの思考

下の局面は紅の手番です。

自分だったらこのあとどういう方向性で指し進めるか考えて見てください。

この対局は2014年中国個人戦の決勝戦です。

紅は郑惟桐さん、黒は王天一さんと今も変わらずトップで活躍する特級大師同士の一局になります。

画像の局面では黒の士が欠けていますし、駒の配置から考えてもはっきり紅が優勢です。ただすぐになにか詰ませるような手順がある訳ではなく、決着まではまだ手数がかかりそうな局面です。

ここから紅の郑惟桐さんはこう指し進めました。

  1. 車一進二 馬5進3
  2. 車一平二 車8退6
  3. 車四平二(下の画像)

紅はわざわざ車一進二と一手かけてまで、車交換を強要しにいきました。これはパッと見たところ意味が分かりにくいですが、実は逆算によって導き出された好手なのです。

この局面での郑惟桐さんの考えは、車交換後に残った紅の車を卒林線(初期配置の卒がいる黒から4段目の横線)に移動させれば、1路の卒が取れる。そうすれば紅は両端の兵が残り、車双兵対馬砲卒単欠士の必勝残局に持ち込めるというものでした。なお現時点では1路の卒は馬が守っていますが、卒林線に車を移動させ圧迫を見せれば移動するしかありません(移動しなかった場合、車二平七に砲8進2と守ると、紅はじっくり兵一進一と兵を進めておけば勝勢です。)

実際に実戦は郑惟桐さんの想定した必勝残局の形に進み、2枚の兵が河を渡って敵陣に入れることが確定した下の画像の局面で終局を迎えています。ちなみにこの対局が決め手となり、郑惟桐さんは自身初となる中国チャンピオンの栄光を勝ち取りました。

実は以前この棋譜を私が最初に並べたとき、「なぜ紅が車交換を求めたのか」「なぜこの対局はこの局面で終わっているのか」が正直分かりませんでした。特に車交換の局面では、私の思考の中に車交換という選択肢は1ミリもありませんでした。

それは私がその局面を順算の考え方でしか考えておらず、大きな駒が車1枚だけになってしまっては詰ましにくくなってしまうため勝ちがイメージしづらかったからでした。

ただトッププロの郑惟桐さんは早い段階で勝ちの終着点を見抜き、そこに落とし込むような形で最初の局面から指し進めたのでした。

これこそが強いプレイヤーの高い逆算の力であり、順算でしか考えていない当時の私のようなプレイヤーとの差になります。

どうすれば逆算の力がつくのか

逆算の力をつけるにはどうすれば良いのでしょうか?

これについてよく言われるのは、実用残局の知識十分な実戦経験です。

例えば先ほどの対局で、当時の私は「車双兵対馬砲卒単欠士」の残局については知りませんでしたが、もう少し駒が減った「車兵対馬単欠士」や「単車対単欠士」が必勝という残局の知識はありました。

つまり勝ちの終着点の候補が郑惟桐さんよりも遠かったということです。

そのため逆算で考え出すタイミングが遅く、車交換の局面ではまだまだ残局モードではありませんでした。

やはり実用残局の広く正確な知識は逆算力を高める上で必須の条件です。

またたとえ「車双兵対馬砲卒単欠士」の残局の知識があったとしても、だからといって車交換という発想が浮かんだかというと全く自信はありません。布局からずっと順算で考えてきた思考のスイッチを逆算に切り替えるには、この形なら実用残局に落とし込めるという自分の中のセンサーの感度を高めなければなりません。これには多くの対局をこなして経験を積むことが必要になります。

要するに知識を勉強するというインプットと、それを実戦で生かすというアウトプットの両方がそろってはじめて逆算力が高められるということです。

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さいごに

シャンチーの日本人プレイヤーには将棋経験者が多いですが、将棋というゲームは取った駒が使えるため盤上の駒が減らず、基本的に終始現状を基準に先を考え続ける順算のみのゲームです。

そのため将棋経験者のシャンチーを見ていると、時々順算に頼りすぎているな(逆算できてないな)と感じることがあり、このような記事を書いてみました。

この点は以前書いた「どうして日本人は残局が弱い?」にも通じるところがかなりあるかと思います。

私自身は今も偉そうなことを言えるほど逆算の力が高いわけではありませんが、逆算を強く意識するようになってから少し戦い方・考え方が変わったなという実感があります。

今まであまり気にしていなかった方は、ぜひ今後は少し逆算の意識を持ってシャンチーを指してみてください。きっとレベルアップにつながると思います。

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