状況解説
今回解説するのは「三兵(3枚の兵)」対「士象全(守り駒は士2枚と象2枚)」という状況の残局になります。
この残局は兵類残局の本丸とも言うべき重要残局で、実戦でもしばしば登場する形です。
今まで学んできた兵類残局の知識をフルに生かして、集大成ともいうべきこの残局について考えて見ましょう!
例題①
まずはシンプルに三高兵の場合で見てみましょう!
- 兵四平三 将5平4
- 兵三進一 将4平5
- 兵三進一 将5平4
- 兵三平四 将4平5(途中図1)
(途中図1)
- 兵六平七 将5平4
- 兵五平六 将4進1
- 兵七進一 象7進9
- 帥五平六 象9進7(途中図2)
(途中図2)
- 兵六進一 将4退1
- 兵六進一 将4平5
- 兵六平五 士6進5
- 帥六平五 象7退9
- 兵七進一 象9進7
- 兵七平六 士5進4
- 帥五平四 象7退9
- 兵四進一 (紅勝)
実際に勝つまでの手順がかなり長くなったので、今回は重要な局面で分けて2度途中図を入れました。
実は例題①のように「三兵対士象全」は紅が勝つことができ、特に兵が三高兵の場合であれば必勝残局だとされています。
ただ難易度的にはそれほど高くはないものの、しっかりとした残局の知識がないと勝つことが難しいため、アマチュアの実戦では和になってしまうことも多いです。
なのでこの例題①を使って、「三兵対士象全」での基本の勝ち方をしっかり理解しておきましょう!
大きな流れとして
①1枚の兵を象眼(二鬼拍門の位置)にスタンバイ
②残りの2枚の兵と帥を使い、肋道を強行突破
③2枚の兵で二鬼拍門を完成させ、最後に帥の利きで詰ます。
という順で勝ちに行きます。
具体的に見ていきましょう。
まず途中図1の局面で、一つ目の兵を象眼にスタンバイすることが出来ました。
このとき象眼は四路と六路に2つ考えられますが、将が移動できない側を抑えに行くのが正解です。
次に途中図2のように肋道の強攻突破を目指します。
この形は強攻突破する際の基本形なので、しっかり覚えておきましょう!
注意点としては、8回合などでもう一度兵七進一とし敵陣2段目まで深く入ってしまうと、将4退1と引かれ詰まなくなってしまいます。
したがって勢い余って進みすぎることのないよう注意が必要です。
そして強攻突破の準備が整ったら、9回合兵六進一から突撃していきます。
もし士5進4と取ったら兵七平六、将4退1、兵六進一、将4平5、兵六進一で即詰みなので、ここは取らずに将4退1の一手。
ですが紅は構わず兵六進一と突進し、黒の将を追い込んで行きます。
このあと他にも手順はありますが、すぐに兵六平五と士を削ってしまうのが分かりやすい指し方。
士6進5に帥六平五とすれば、あとは七路の兵を移動させ二鬼拍門を完成させれば簡単な勝ち形に持ち込めます。
最後の注意点は、12回合帥六平五の代わりに先に兵七進一とした場合、士5進4、兵七平六、象5進3で必和になってしまうというところです。
これはうっかりしそうなので注意が必要ですが、もし紅に士や相がある場合にはこれでも勝つことができます。
このあたりは以前「双兵対単士象」「双兵対単欠士」などでも解説しましたね。
今回分かりやすくするため黒の動きはなるべくシンプルものにしましたが、実戦では他にも色々と考えられます。
しかしこの基本を抑えておけば、どんな形でも勝つことが可能です。
実戦で相手の動きに惑わされることなく、しっかりと勝ちきれるように頑張って理解しておきましょう!
例題②
次は、例題①の攻め方ができない一枚高兵・二枚低兵の場合を見てみましょう。
- 帥五平六 象3退5
- 兵八平七 士5進4
- 兵七平六 士6進5
- 後兵平五 象5進7
- 兵五平六 象7退5
- 後兵進一 士5進4
- 帥六平五 象1進3
- 帥五平四 士4退5
- 兵四平五 (紅勝)
まず初手の帥五平六が大事なポイント。
黒の将に先に将5平4と先着されると、肋道を攻略するのが難しく和になってしまいます。
2枚の兵を二鬼拍門の位置に移動させたあとは、1枚士を削ってからもう一度二鬼拍門の格好にして勝つのが正しい方針です。
この場合は6回合の後兵進一がそれにあたり、あとは帥の利きを生かした簡単な詰みになります。
なおここでも7回合はすぐに帥六平五と寄らないと、黒に象5進7などとされて和になってしまうので注意が必要です。
ちなみに黒が二鬼拍門にされるのを全力で防ごうとした場合、以下のような手順も考えられます。
- 帥五平六 士5進4
- 兵八平七 将5平4
これで一時的に二鬼拍門を防げたように見えますが、以下のような手順でやはり紅勝ちとなります。
- 前兵進一 象3退5
- 後兵進一 象5進7
- 後兵進一 象7退5
- 後兵平五 象5進7
- 兵七平六 (紅勝)
この他にも色々な手順(特に黒の対応)が考えられますが、全て解説することはなかなか難しいのでお許しください。
もし疑問に思われた手順があれば、コメント頂ければ解説したいと思います。
このように「一枚高兵・二枚低兵」でも結構勝てそうな感じがしますね。
ただ実際には形次第というのが正しい分析で、例えば例題②の局面が黒の手番だった場合は、将5平4と先着して必和の残局になります。
したがって三高兵以外の場合には、実戦の中で勝てるかどうかを慎重に見極める必要があるでしょう。
まとめ
「三兵対士象全」の残局は、
三枚とも高兵の場合は必勝
それ以外の場合は形次第
という結論になります。
実戦鑑賞
まとめを踏まえた上で、この残局が登場した実戦を見てみましょう!
今回紹介するのは2005年の世界選手権の対局で、
紅はマカオ代表の郭裕隆さん、黒はアメリカ代表の纪中启さんです。
私自身2人とも存じ上げませんが、調べるとマカオの郭裕隆さんは特級大帥相手に和を取った実戦譜が出てきましたし、かなりの強豪だと思われます。
またアメリカ代表の纪中启さんも、複数回国際大会に出場しているようで、しっかりとした実力がありそうです。
そんな2人の対局は56回合を終えた時点で次のような局面になりました。
皆さんも紅を持ってここからどう勝つかを頭の中でイメージしてみてください。
- 兵五進一 士4進5
- 兵五進一 象1退3
- 兵五平四 将5平4
- 兵三進一 将4進1(途中図1)
(途中図1)
三兵が無事河を渡ることに成功し、三高兵の必勝形となりました。
あとは例題①で学んだ要領で勝ちを目指します。
- 兵三進一 将4退1
- 士五退四 将4進1
- 帥五進一 将4退1
- 兵三進一 将4退1
- 兵三進一 将4退1
- 兵三平四 将4進1
- 兵六平七 将4退1
- 後兵平五 将4進1
- 兵五平六 将4進1(紅勝・終局図)
(終局図)
まだまだ実際に詰ますまでには時間がかかりますが、この局面で黒が負けを認めました。
終局図以下の解説は省略しますが、例題①で解説したやり方で攻めれば必勝の残局です。
この残局において、紅の郭裕隆さんは全く無駄な手がない完璧な指し回しでしたね。
まさに「三兵対士象全」のお手本のような指し方でした。
初手からの流れをまとめると、
①まず3枚の兵が河を渡り高兵になる。
②つぎに帥の守りを敢えて剥がし、帥の利きが通るようにする。
ここまで下準備をまずしたあと、例題①で解説したように
③1枚の兵を象眼(二鬼拍門の位置)にスタンバイ
④残りの2枚の兵と帥を使い、肋道を強行突破
と進み、実際には④の途中、実際に強攻突破する前に相手が負けを認めました。
ここまでしっかりと指されると、相手のミスを狙って指し続ける気もなくなりますね。
投了もやむなしだと思います。
この対局の郭裕隆さんの指し方を見ても分かるように、やはり国際大会に出場する強豪プレイヤーの方は、残局の基礎知識をしっかりと理解し身につけていますね。
なかなか大変ではありますが、私たち日本人も負けないよう頑張りましょう!