前回は初期配置で裏返った状態での駒別戦略を紹介しました。
今回は動かして表になった駒の駒別のテクニックを紹介していきます。
車
今までの記事でも何度か書いているように、掲棋において車は最強の駒です。
よって最も大切なのはとにかく車を相手に取られないということになります。
うっかりミスを除いて車が取られてしまうケースとして多いのは、中央の車が砲により牽制され動けなくなってしまう状況です。
下の画像の黒の車がまさにそのような状況で、次に砲と車の交換が確定してしまっています。
こうした状況を防ぐには、常に車の進路に注意すること、そして初期配置の中兵を動かす時に中兵と帥との間に駒があるかを確認することが大切です。
車の有無は形勢に最も影響を与える非常に大きな要因なので、細心の注意を払うようにしましょう。
また車は言わずもがな攻撃面での破壊力は抜群です。
特に序盤の早い段階で車が出せた場合は、相手の裏になった3卒・中卒・7卒は根がない弱い駒なので積極的に取りに行きましょう。
また中盤以降は帥と協力して肋道や側面から攻撃するのが単純ながら強力な攻撃となります。
もちろん帥を肋道に出すには士を上げないといけないため、その場合は自陣の安全度や相手の駒の状況も考える必要があるでしょう。
こうした攻撃以外にも、常に相手の浮き駒(根のない駒)や陣形の隙を積極的に狙うことで、盤面を支配し優位に進めることが出来るでしょう。
砲
序盤で砲が出た場合は、積極的に相手の車との交換を狙っていくのが砲の特性を生かした頻出テクニックです。
下の一連の画像のように、砲で相手に駒損を防ぐための遮る動きを強要しますが、それがもし車だったら交換して駒得が確定します。
ここから砲9平1と根のない初期配置の車取りをかけます。
だたで取られたくはないので紅は馬八進九と上がり守ります。
馬八進九としたとき、表が車でした。黒の狙い通りで、砲1進3とし砲車交換の駒得となります。
車以外だった場合に相手の駒を表にするお手伝いをしているようで損だと感じる人もいるかもしれませんが、相手の表になった駒は自陣の3段目でなおかつ卒の下なので、すぐにカウンターが来る心配はありません。よってこのテクニックは運の要素が少し大きいですが、デメリットが少ない有効な手段と言えるでしょう。
またそうしたテクニックが使えない状況であれば、シャンチーと同様に自陣に戻して自陣から相手の駒を狙うの正しい方針です。
ただまだ盤上に自分の車が出ていない場合には、砲を自陣に戻すことよりも裏返った駒を動かして盤上に車を出すことを優先したほうが良いでしょう。
馬
砲と同じく強い攻め駒である馬は、特に敵陣の九宮付近で大きな力を発揮します。
とりわけ卧槽馬と士角馬の位置は駒得・殺法の両面で非常に強力なので、積極的に狙っていくことにしましょう。
ただ車や砲に比べると動きが遅いので、自陣にある場合はあまり働かないことも多いです。ただこうした場合の馬でも長期戦になったときに突然輝き出すことがあるので、簡単に取られてはいけません。
また自陣の端にある馬は結構取られやすいです。相手の初期配置の砲が馬の横に来て卒になり、馬が殺されてしまうという状況はよく見られます。どうしようもない場合もありますが、なるべく馬の進路の確保には気をつかった方が良いでしょう。
相
相は位置によって大きく働きが異なります。
敵陣付近で相手の将の逃げ道を塞ぐ位置にある相は、殺法を組み立てる際に大きな戦力になります。
特に将の真上の位置を抑えている相は、相手の士の動きも牽制しているので恐らく最も良い位置と言えるでしょう。また直接将にジャンがかけられる位置に移動出来る相も好形です。
上の画像では右上の紅の相が将の真上を抑えており、攻撃に大きな役割を果たしています。
また相は兵ほどではないものの元々の駒の価値が低いので、例え根があったとしても相手の裏の状態の駒を取ってしまうというのは期待値の高い有力な作戦となります。
さらに相はそれなりに移動速度も速いので、中途半端な位置で特に攻撃にも防御にも働かない微妙な位置に相が出てしまった場合には、このような形で相手の駒を取れないか考えてみましょう。
ただ基本的な駒の性能自体は馬や砲などに劣るので、使うのに手間がかかる相は無理に活用しようとはせず、相の存在は無視して他の駒で戦略を組み立てたほうが良いでしょう。
ちなみにシャンチーにおいて象の連携は結構重要ですが、掲棋においてはそれほど意識する必要はありません。
士
士は動きこそ地味ですが、攻守に渡り活躍する重要な駒です。
特に自陣の九宮付近で出た場合には殺法への耐性がかなり向上し、防御の面でかなり役立ちます。
また敵陣深くに侵入した場合は攻撃の駒としてもかなり有力で、将の逃げ道を塞いだり、直接ジャンをかけたりと殺法を組み立てるにあたって非常に重宝する駒です。
こうした点を考えると、掲棋においては士>相という力関係で理解して良いでしょう。
また相同様もともとの価値が低い駒なので、根があったとしても相手の裏の状態の駒を取ってしまうというのは期待値の高い有力な作戦となります。
ただ移動速度という点ではかなり遅いので、端などで微妙な位置に出てしまった場合には動かす優先順位は低いでしょう。
上の画像では、紅の士が敵陣九宮に入り込み攻撃を狙っています。
まだ後続の駒がいないのですぐには何もないですが、黒にとっては怖く気持ちの悪い状況です。
また士において特筆すべき点は、2枚の士の連携です。
これは2枚の士が近くに出て、さらに連携できる位置関係でないといけないため出現確率はそれほど高くないですが、この形が出来た場合は単なる士2枚よりもはるかに大きな力を持つ絶好形となります。
士の連携は結びつきが強力で、相の連携と違い2枚の連携を崩される心配もありません。また元々の駒の価値が低いので、どちらかを取られても駒損するリスクが低くなっています。
連携した士を具体的にどう生かすかは位置や状況によって異なりますが、もし2枚の士が近くにあり速やかに連携できそうな場合には積極的に狙っていきましょう。
上の画像で黒は攻勢をかけられ苦しい状況ですが、中央自陣の連携した士が守りの要となってなんとか耐えています。
兵
兵が最も弱い駒ですが、逆に言えば最もリスクが低い駒とも言えます。
そのため敵陣で取れそうな相手の駒(特に裏の状態の駒)があれば、根の有無にかかわらず積極的に取りましょう。
また様々な駒を土台とし、突き捨てて相手の初期配置の卒と強制的に交換するというテクニックもあります。これは確実にマイナスにはならない交換となるので、出来る場合は積極的に狙っていきましょう。
下の一連の画像が強制交換の大成功例です。
ここで兵五進一と突きます。
黒は無視したらさらに兵五進一と裏の中卒を取られてしまうので、どうせならと卒5進1としました。
黒としては悪夢ですが初期配置の中卒は車でした。
紅は車七平五と車を取って、兵と車の交換となり大優勢です。
ただ敵陣ではなく自陣、とりわけ自陣深くで出てしまった兵は、当面ずっと無視で構いません。
こうした兵の活用には相当時間がかかるわりに、駒の性能からそれほど大きな戦果を期待できないため、相手から見たらパスのような手になってしまうからです。
ただ何度か書いているように自陣深くの兵であっても、帥の真上に兵が出てしまった場合には、なるべく速やかに動かしたほうが良いでしょう。
それでは今回はここまでで、次回からは掲棋の布局理論について紹介していきます!