状況解説
今回解説するのは「単兵(1枚の兵)」対「単士(守り駒は士1枚)」という状況の残局です。
前回紹介した「単兵対孤将」は底兵の場合以外必勝でしたが、黒の守り駒に士が1枚加わるとどんな違いがあるのでしょうか?
単純そうに見えてなかなか奥が深いので、中級者以上の方も「こんなん余裕」と甘く見ず、ぜひ記事を最後までご覧ください。
例題①
まずは「単兵対単士」で最もシンプルなこの局面から見ていきましょう。
- 兵五進一 士5退4
- 帥五平四 士4進5
- 帥四進一 士5退6
- 兵五平六 将5平4
- 帥四平五 士6進5
- 兵六平五 士5退6
- 兵五平四 将4進1
- 兵四進一 将4進1(和)
実は「単兵対単士」の残局は、通常の状況下では勝つのが難しいとされる残局です。
ただ黒もしっかりとした知識がないと、間違えて負けてしまいます。
例題①の手順の中で注意が必要なのが3回合の士5退6で、「士は帥と同じ線に逃げる」というのが黒が和にする上で最も重要なポイントです。
もし士5退4だと、兵五平六とし以下どちらの手順でも紅が勝ちになります。
手順①
士4進5、兵六進一、士5進6(どこでも大体一緒)、帥四退一、士6退5(将5平6なら兵六平五で勝ち)、帥四平五、将5平6、兵六平五で紅勝ち
手順②
将5進1、帥四退一、将5退1、兵六進一、士4進5、帥四平五、将5平6、兵六平五で紅勝ち
また4回合も黒は将5平4の一手で、士6進5だと兵六進一から手順①の要領で紅勝ち。将5進1も手順②の要領で紅勝ちです。
その後も正しく応対し続ければ黒は和にできますが、1手でも間違えると負けてしまうので、和が確定するまでは一瞬たりとも油断ができませんね。
例題②
今度は勝ちになる場合の局面を見てみましょう。
- 兵六進一 将5平4
- 兵六平五 将4進1
- 兵五平四(紅勝)
初手の兵六進一に対して、黒は他にも応手がありますが全て紅勝ちです。
将5進1だと、帥四進一、将5退1(将5平4だと、兵六平五から士を取って必勝)、兵六進一で以下例題①の手順①の要領で紅勝ち。
将5平6だと兵六平五から士を取れば単士対孤将になるので必勝。
士6退5だと兵六進一でやはり例題①の手順①と同じ要領で紅勝ちとなります。
この局面以外にも「単兵対単士」で紅が勝てる局面は存在するので、実戦でこの残局になったら紅黒双方がしっかり考えないといけません。
例題③
ここで終わりならまだ分かりやすいのですが、一見関係なさそうな紅の士や相の有無によっても結果が変わることがあります。
下の局面は例題①に紅の士を1枚加えたものです。
- 兵五進一 士5退4
- 兵五平四 将5平6
- 帥五平四 士4進5
- 兵四進一 将6平5
- 帥四平五 士5進4
- 帥五平六 士4退5
- 士五進四 士5進4
- 帥六進一 士4退5
- 帥六平五 将5平4
- 兵四平五 (紅勝)
2回合で紅が兵五平四と寄れるのが例題①との違いです。
これに対し将5進1なら帥五平六、将5退1、兵四進一以下紅勝ち。
士4進5でも、兵四進一、士5進4(士の移動はどこでも同じ)、帥五平六、士4退5(将5平4なら兵四平五で詰み)で以下本譜と同様の手順で紅勝ちとなります。
また5回合の帥四平五が勝負を左右する大きなポイントで、先に士五退六などだと士5退6から将5平4、将4進1と逃げられて和になってしまいます。
このあたりは攻める側も細心の注意が欠かせません。
今回の局面は紅陣に士があるパターンでしたが、相であっても意味合いが同じなので紅が勝つことができます。
士や相があるからといって必勝残局になるわけではないですが、無いときよりも勝ちやすくなるので覚えておきましょう!
まとめ
「単兵対単士」の残局は、
勝つのは難しいが勝てる局面もある
紅に士や相があると勝ちやすくなる
という結論になります。
実戦鑑賞
まとめを踏まえた上で、最後に「単兵対単士」の残局が明暗を分けたプロの実戦を紹介したいと思います。
これから見て頂くのは、2006年に行われた「交通建设杯全国象棋大师冠军赛」という大会の決勝戦です。
紅が黄海林さんという大帥の方、黒が赵鑫鑫さんという有名な特級大帥の方の対局で、最終盤ギリギリの攻防が続き、この局面になりました。
現在手番は黒です。
- ・・・・ 馬7進5
- 帥五退一 卒6進1
- 士六進五 卒6進1(黒勝)
ここで紅が負けを認めました。
その後の変化の一例は、士五進四、象5進3、士四退五、将5進1、士五進四、士5退4、士四退五、将4平5、帥五平六、卒6平5で黒の勝ちです。
実はこの局面で黒が馬7進5と砲を取ったのは悪手で、3回合で紅が帥五平四と指していれば紅が間違えない限り必和の残局になっていました。
この対局について詳しくは知らないのですが、持ち時間は60分+1手30秒加算の長い対局だったので、最低でも紅には3回合の手を指すにあたって30秒は考える時間があったと推測できます。
当然紅も大帥の方なので、冷静になって少し考えれば本来なら正しい判断ができたはずです。ただ決勝ということもあって、大帥であれど相当緊迫した雰囲気のなかで思わずミスが出てしまったのでしょう。
トップレベルの対局でもこういうことが起こるんですね。
きっと紅の黄海林さんは対局後相当落ち込んだのではないかと思います。
ちなみに長くなるので手順の紹介はしませんが、黒が馬7進5ではなく卒6進1なら紛れなく黒勝ちだったようです。
気になる方はぜひ検討してみてくださいね。