日本人は残局が弱い?
前回の記事では、「残局とは何か」ということについて説明しました。
またそれを通じて、シャンチーにおける残局の重要性を分かって頂けたと思います。
そんな大事な残局ですが、実は残念なことにこの記事を書いている2019年時点では、日本人プレイヤーは世界から残局が弱い人たちと認識されているようです。
なので国際試合などでは仮に劣勢で負けそうでも、「相手が日本人なら最後まで諦めるな」というような形で最後まで諦めず粘ってくるケースが多く見られます。
そして実際に日本人プレイヤーが本来なら勝てる局面を和にされたり、逆転負けしたりするケースもよく見られるのです。
そんなふうに日本人の残局が弱いのは、一体なぜなのでしょうか?
これが理由という明確な答えはないですが、いくつか考えられることを私なりに推察してみようと思います。
勉強の効果が分かりにくい
まず考えられる理由の一つが、「勉強の効果が分かりにくい」ということです。
シャンチーは「開局⇒中局⇒残局」という流れで対局が進みますが、開局や中局で大きな差がついた場合、残局段階まで進まずその前にゲームセットとなる場合が多くあります。
また仮に残局段階まで進んでも、実戦は生き物なので勉強した形がそのままの配置で盤面に現れることは非常に少ないです。
これが指し手があまり進んでいない開局の段階だと、本で勉強した通りに進行することも珍しくないんですけどね。
つまりせっかく残局を一生懸命勉強しても、すぐに勝ちやすくなったりといった即効性があまりないんです。
日本では現状シャンチーを知らない人がほとんどなので、小さなころから友人などと遊んで親しんでいたという人はまずいません。
なので遊んでるうちに自然に強くなったというタイプの人はおらず、今日本人で上位に位置するプレイヤーの方々もみんな本などで勉強して強くなっています。
そして限られた時間の中でシャンチーの何を勉強するかとなると、どうしてもすぐに役立ち即効性のある「開局」に重きが置かれがちです。
勉強の効果が分かりにくい残局の優先順位が下がってしまうのも無理はありませんね。
したがって、みんな残局の重要性を頭で理解していても、現実問題そこまであまり手が回っていないというのが、日本人が残局が苦手な一つの要因ではないかと考えています。
将棋との感覚の違い
私も含め日本人シャンチープレイヤーの多くが将棋経験者なので、将棋とシャンチーの感覚の違いも日本人の残局の力に影響している可能性があります。
将棋経験者がシャンチーを始める場合は、「駒損」や「手損」といった開局・中局段階で初心者がやりがちなミスの頻度が非常に少ないです。
このあたりの考え方は将棋とシャンチーで同じなので、将棋の経験がシャンチーに生かされていますね。
ただ残局に関しては将棋とシャンチーでは完全に別物です。
将棋の経験を生かそうとするとかえってマイナスにすらなってしまうほど考え方や感覚が違ってきます。
どのくらい違うかを分かりやすくするため、局面の段階ごとの難易度をグラフにして将棋とシャンチーで比較してみました。
このグラフは私の個人的感覚を表したものなので、人によって色々異なる点があるかとは思います。
ですがグラフの形状自体には大きな差はないのではないでしょうか。
2つを見比べて特筆すべき点はやはり終盤(残局)で、将棋が加速度的に難しくなっていく一方、シャンチーは中盤(中局)に比べ盤面が落ち着いていくイメージがあります。
これは取った駒を使えるか使えないかという根本的なルールの違いが影響しており、そのことから将棋での経験はシャンチーの終盤戦には応用できないのです。
例えば将棋では「終盤は駒の損得よりスピード」とよく言われますが、シャンチーでは即詰みでない限り終盤こそ駒の損得が大事になるケースが多いです。
このあたりの感覚の違いは、勉強と経験で乗り越えていくしかありません。
こうしたことを踏まえると、日本人は残局が苦手なのは「開局や中局と違って将棋の経験が生かせないから」という推論も十分考えられるのではないかと思っています。
環境の問題
何事でもそうですが、高いレベルの環境下に身を置くと人間は成長しやすいですよね。
シャンチーに関しても同じことが言えるのではないかと思っています。
日本はまだシャンチーの選手層が薄い国ですし、特に残局に関しては得意にしている人が非常に少ないです。
そのため国内の対局では高いレベルの痺れる残局戦になること自体少ないですし、そんな対局を見てアドバイスができる残局マスター的な人もほとんどいません。
したがってシャンチーの本場である中国やベトナムに比べると、残局の力をつけるには環境が整っていないと言わざるを得ないでしょう。
もちろん国際大会などに出場すれば高いレベルの残局戦になることも多いですが、シャンチーのために年に何度も海外に行くのはなかなか大変です。
高いレベルの残局戦を人と直接指す機会が少ないというのは、日本人選手が残局を苦手とする理由の一つとして十分に考えられるでしょう。
残局を頑張ろう!
ここまで日本人がなぜ残局を苦手とするのかをいくつか考えてきました。
もちろんこの他にも色々と考えられる理由があるかもしれません。
ですが、おそらくどんな理由にも共通して言えるのが「頑張れば乗り越えられる」ということです。
メジャーで通用するホームランバッターが日本からなかなか出ないように、体を使うスポーツでは遺伝的・体質的要素が大きく影響する面があります。
しかしシャンチーではそういった要素は全く関係なく、環境の違いはあれど個人の頑張り次第でなんとでもなるでしょう。
とりわけ今はインターネットやコンピュータソフトが普及しているので、以前よりかは日本にいても勉強して力をつけやすい環境になってきています。
直接指すのには劣るかもしれませんが、アプリやゲームサイトで海外の強豪と対局することも簡単にできる時代ですからね。
私自身も典型的な残局を苦手とする日本人プレイヤーの一人なので偉そうなことは言えませんが、残局の記事制作を通して苦手意識を克服できたらと思っています。
いつの日か「日本人=残局が弱い」というイメージを払拭できる日が来るよう、一緒に頑張りましょう!
コメント
いつも更新ありがとうございます!
そうですよね!残局って永遠の課題と言いますか・・・・。
対局では残局の時にはほとんど時間がなかったりもしますし、そうなってくると試合の残局局面ではわりと感覚的に指さなければいけなかったりします。(そして小さい時から数多く指している本場の中国系選手の方との感覚の違いを痛感させられるアレです・・・。つらい…)
あー。残局。残局はどれだけ時間をかけて勉強して試合にのぞんでも、必ず試合のあとには「残局がたりない・・」と思って帰ってくるのですよね。
この永遠の課題に、管理人さま・・・。
ついに足を踏み入れると言うことで|д゚)応援しています!
では、次の更新も楽しみにしています!
コメントありがとうございます!
そうなんですよね、残局の考えたい場面では大体時間残ってないんですよね。
なので仕方なく直感で思いついた手を指し続けるのですが、そのうちに大きなミスをしていつも負けてしまいます(汗)
残局を記事で扱い始めると大変なことになりそうですが、できる限り頑張ってみるつもりです!
記事中に間違ってる点などあれば遠慮なく教えてくださいね。
これからも当サイトをよろしくお願いします!
将棋とシャンチー、両方指している身としてはシャンチーの中局がすでに将棋の終盤、残局は指し将棋を突き抜けて詰将棋の世界、と感じます。「王手」という縛りがない分、詰将棋よりずっと複雑。知識と経験を積み重ねていくしかないでしょう。大して強くもないけど将棋好きなおっさんでも、「三兵例勝士象全」の知識があっただけで国際大師と引き分けた、という実例もありますから(笑)。
コメントありがとうございます。
「シャンチーの中局がすでに将棋の終盤、残局は指し将棋を突き抜けて詰将棋の世界」というのは面白い発想で、その通りかもしれないですね。
となるとシャンチーの序盤はすでに将棋の中盤ですかね。なんだかこれも納得できる気がします。
将棋とシャンチーの両方をやっているとどうしても両者を比較しちゃいますが、もう少し完全に別物として分けて考えた方が良いのかもなと思いました。
今後とも当サイトをよろしくお願い致します!