超ハイレベルな大会
10月13日~16日にかけて、「深圳シャンチー国際招待戦(正式には2021年一带一路深圳象棋国际邀请赛)」という大会が行われていました。この大会がどういった大会なのかについて詳しくは知らないのですが、男子プロ組の出場メンバーを見ると、「曹岩磊、谢靖、王天一、孟辰、洪智、赵鑫鑫」という現役バリバリの超一流特級大師6名のみの参加ということで、主催者の本気度と大会のレベルの高さがうかがえます。また対局は全て快棋(持ち時間の短い早指し)ということで、ファンの人たちも観戦していてとても楽しい大会だったのではないかと思います。
大会は5ラウンドの総当たり戦で行われ、そこでの上位2人が最後に決勝戦を行うという形式です。熱戦の末、決勝に進んだのは谢靖さんと孟辰さんの2人でした。決勝戦は10分+一手10秒加算の快棋5番勝負という面白い形式で、それで決着がつかなければさらに5分+1手5秒加算の超快棋で決着をつけます。実際この2人の対局は5ラウンドで決着がつかず、超快棋を制した孟辰さんが見事優勝を決めました。
大会の模様はYoutubeでも生配信されており、私は最初の総当たり戦はほとんど見れなかったのですが、優勝が決まる瞬間くらいは見ようと思い決勝5番勝負の途中から観戦していました。特に優勝の行方を大きく左右する5番勝負の5局目と、延長戦の超快棋はとても面白かったので、ここで少しだけ紹介したいと思います。
難解な残局でのまさかのうっかり
上の画像は決勝5番勝負の5局目の局面で、黒の番です。紅が谢靖さん、黒が孟辰さんで、2人のポイントは4局を終えた時点で並んでいます。つまりこの勝負勝った方が優勝という状況です。
局面は既に残局段階で、黒が優勢です。ただこの残局を勝てるかどうかは非常に微妙で、私が持っている残局の本によると、相手が車単欠士の場合、車砲双士ならば必勝と書かれています。ただこの局面では黒は単士しかなく、その代わりに象が1枚ありますが、これも1枚だけなので非常に不安定です。よって黒はかなり陣形に気を遣いながら紅を攻撃する必要があり、なかなか難解な残局といえます。
ただとはいえ実戦的には黒が結構勝ちやすそうな感じもあり、ここは特級大師の技が光りそうな局面です。ここでの孟辰さんの残り時間は約2分。まだ少し余裕があったことから腰を据えて勝ちを探ります。そして1分ちょっと考えた末に指したのが、まさかの士6退5。これは自然な手ですが、よく見ると何も根がありません。谢靖さんは一瞬ビックリしたあとすぐに車五進四と士を取ります。その後も少し指し続けますが、大事な攻撃の基盤がなくなった黒は有効な攻撃ができず、結局対局は和で終わりました。
想定外のあっけない終わりに見ていてビックリしましたし、勝てたかどうかは別としても孟辰さんにとってめちゃくちゃ不完全燃焼な残局になってしまったことは間違いありません。しかも酷なことに、終局後わずか5分ほどで最終決着をつける延長戦が始まってしまいます。流れは完全に谢靖さんに向かっているように見えました。
華麗な入局で快勝
延長戦は紅が孟辰さん、黒が谢靖さんで始まりました。先ほどまでより持ち時間がさらに短くなり、対局は非常にテンポ良く進みます。上の局面は22回合紅の手番です。黒は相を削り駒得をしていますが、紅が積極的に攻勢をかけペースを握っています。ここからの紅の入局(将棋でいう寄せ)が見事でした。
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- 馬五進七 馬5進3
- 車七平九 砲1進2
- 馬七進六 将5進1
- 馬六退四 将5退1
- 砲七進一 士4進5
- 馬四進三 将5平4
- 砲五平六 将4進1
- 車九平六 士5進4
- 車六平七 馬3進4
- 砲七平三 車2退3
- 車七進一 (紅勝、下図)
流れるような手順であっという間に黒を攻め立て投了に追い込みました。ポイントとなる手はいくつかありましたが、個人的に特に印象に残ったのは攻撃の起点になった馬五進七です。黒に馬5進3とさせることによって紅の馬にヒモをつけ、車七平九と車を自由に攻撃に使うというのは非常に見事な手順でした。
この一局を快勝して孟辰さんが優勝を決めました。直前にうっかりをしてしまい悪い流れでしたが、しっかり切り替えて勝ったのは素晴らしかったです。孟辰さんが心技ともに非常にレベルが高いこと示した大会だったと思います。個人的には今まで特級大師の中では少し活躍が地味な印象(恐らく知らないだけ)があったのですが、これからはもっと注目して見ていきたいと思います。今後のさらなる活躍に期待です。
まだ動画がUPされているので、皆さんも時間があればぜひ見てみてください。解説が中国語なのが当然とはいえ少し残念ですが、盤面を見ているだけでもとても面白く勉強になると思います。