局面紹介
中局この一手の2回目は、2016年に行われた「第二届吉视传媒·净月杯象棋全国冠军南北对抗赛」という大会で登場した局面を紹介します。
この大会は中国チャンピオンになったことがある特級大帥8名が北方チームと南方チームに分かれて戦うという非常にレベルの高いものでした。
今回紹介する対局は紅が許銀川さん、黒は王天一さんというシャンチー界のスーパースター同士の注目の一戦です。
紅の急進中兵というただでさえ激しい変化に対し、黒が貼将馬(馬3退4)という対抗策の中でも最も激しい変化で対応したのが本局で、問題の局面は23回合手番は紅です。
皆さんならどう指すか考えて見てください。
解説
正解は「兵六平七」です。
まず局面が複雑すぎるので問題の局面を少し整理しましょう。
現状黒が駒得(砲と相)となっています。ただ紅が攻勢をかけており、黒陣営は非常に危険な状態です。ただ紅にも現状車取りがかかっており、紅の右辺はそれほど安全という訳ではありません。
紅としてはこのまま攻めきれず落ち着いた展開になると黒の駒得が生きる苦しい展開になるので、なんとか一気に攻めきりたいところです。
少し局面を整理したところで、正解の兵六平七について考えて見ましょう。
単純に馬4退3と兵を取ると、車九平六、車1平4、車四進九、士5退6、車六進六、将4進1、士五進六という華麗な手順で一気に詰みとなります。黒は馬4退3と引いたことで、2路の後砲を守りに使うことが出来なくなっていますね。
兵を取れないということで馬4進5とすると、車九平六、車1平4に前兵平六もしくは前兵進一で以下簡単に紅の勝ちです。
ではということで車1平4とすると、紅は車を取れることは確定したので1回落ち着いて車四進二と逃げておき紅優勢です。次に兵で砲を取る手もありますし、砲が逃げれば前兵進一などさらに攻勢をかけておけば、駒得の利も消えましたし黒陣営は大変です。
実戦はやむなく馬4退6と黒は引いたのですが、車九平六、車1平4、馬三退四で黒投了となりました。馬7進6と車を取ると車六進六、将4進1、兵七平六で詰みですし、前砲平6には車四進六と車取りを避けながら砲を取り、次は単純に砲六進七とするくらいでも紅が勝勢です(相手の応手によっては砲六進七ではなく即詰みも常に狙えます)
局面が複雑すぎてまだまだ解説しきれていませんが、兵六平七が妙手なのがお分かり頂けたでしょうか?
ちなみに兵六平七以外だとダメなのかというと、必ずしもダメではないが勝負を決定づけるほどの好手ではありません。
最も自然そうな車九平六だと、馬7退5、砲六進四、馬5退4、車六進三、車8進2のような進行で紅優勢ですが、すぐに決着がつくほどの大差ではありません。
またこちらも自然な車を逃げる車四進二だと、象7進5が6路の士にヒモをつける受けの好手で、これも紅ペースかもしれませんが簡単ではありません。
最後に
この対局は紹介した妙手のあと数手で黒が投了したので、25回合(将棋でいう49手)という短手数の対局になりました。チャンピオン同士の持ち時間の長い対局がこれほど短手数で終わるというのもなかなか珍しいので、シャンチーファンの間では有名な1局です。
なお全ての棋譜は以下のサイトからご覧頂けます。
ちなみに18回合までは布局通りの進行で、19回合紅の車九進二に対する黒の前砲退4が敗着でした。ここでは前砲退1が正解です。
この布局の変化はお互いノーガードの殴り合いになるので、プロアマ問わず一手間違えたらすぐに終わってしまう危険な戦いです。
私も危険なのは知ってましたが、今回の王天一さんの敗戦を知り改めて身にしみました。
事前の研究が肝になるので、激しい変化と布局勉強が好きな方はぜひ研究してみてください!