今回は前回の記事の「基本図②の変化①馬2進3」から、紅が兵七進一とした手に対して黒が車1進1と双横車で対抗する布局を紹介していきます。
順手砲直車対横車の中でも最重要と言って良い有名な布局なので、皆さんぜひ覚えておきましょう!
目次
基本図③
まず今回のテーマである基本図③は下の画像の局面です。
- 砲二平五 砲8平5
- 馬二進三 馬8進7
- 車一平二 車9進1
- 馬八進七 車9平4
- 兵三進一 馬2進3
- 兵七進一 車1進1(基本図③)
この基本図③の局面を少し分析してみましょう。
まず気になるのは馬の働きの差です。紅の馬は2枚とも進路が確保されている一方、黒は前に進めない状態のため、この点では明らかに紅に分があります。
ただ進路が確保されているといっても、紅の左馬はすぐに前に進むことは出来ず、根もありません。そのため攻撃目標にされやすい弱点でもあります。
また車の働きの差については、紅の左車がまだ使えていないので、双横車でうち一つが肋道にある黒の方が少し良いと言えるでしょう。
そのため基本図③からの展開では、馬の働きの差を生かして優位を築きたい紅と、2枚の車を機敏に使って紅の弱点を攻めながらペースを握りたい黒の激しい主導権争いとなります。
こうした点に注目しながら具体的な手順を見ていきましょう!
変化① 相七進九
基本図③からの紅の指し手は主に3つあるのですが、相七進九は最も実戦例が多い手です。
ただ一見すると意味が分からないですし、相が中央ではなく端に跳ねるのであまり良い形でもありません。
初心者の方が基本図③を見ても、まずパッとは思いつかない手なのではないでしょうか?
私が以前読んだ本では、この相七進九について「大量の実戦の中から生み出された有力な手」というような記述がありました。
おそらく昔の人も相七進九をそんなに最初は有力視していなかったのでしょう。
誰かが使い始めて、「意外といけるなこれ」というような形で広まっていったのだと想像しています。
少し話がそれましたが、この手の意味としてはまず紅の弱点である左馬を支えるということが挙げられます。
このあとでも紹介しますが、相が上がったことにより、左馬が取られそうになった時に車九平七と支える手があります。
また別の意味としては、士六進五から相手の動きを見て車九平六と車をぶつける手も用意しています。これはあとで紹介する変化②の士六進五でも見られる考え方です。
相七進九に対しては黒も対応も分かれるので、それぞれ見ていきましょう。
変化①ー① 車4進5
車4進5は最も実戦例が多い黒の応手で、あくまでも紅の弱点である左馬を狙って指そうという方針です。以下は次のような順で互いに進行します。
(基本図③からの指し手)
- 相七進九 車4進5
- 馬三進四 車4平3
- 車九平七 卒3進1
- 車二進五(下の画像)
8回合、紅は馬の働きを生かして馬三進四と中央に跳ねながら車取りをかけます。
その後車4平3と黒が馬取りをかけますが、車九平七と馬を支えられるのが事前に相九進七と跳ねた効果。
黒は次に紅に馬四進六と両取りをかけられると大変なので、卒3進1と突いて馬の進路を確保しながら馬四進六を防ぎます。
これに対し素直に兵七進一とするのも悪くはないですが、車3退2とされ黒の主張が通った形になりあまり面白くありません。
画像のように車二進五と進み車二平七などを狙うのが強い指し方となります。黒は車二進五に対しては卒5進1や車1平6、砲2進4など色々と応手があり、いずれも難しいですが正しく指せばやや紅ペースの情勢です。
また10回合で紅は車二進五の他に、砲五平三から砲三進一と黒の車を殺しにいく指し方もありこれも有力です。
変化①ー② 卒1進1
卒1進1は2番目に多く、紅の相七進九を積極的にとがめにいこうという指し方です。
ただそもそも黒の右車は横車に使うために車1進1とあがったことを考えると、卒1進1から縦に使うことに違和感がある人もいるでしょう。
この点に関しては、確かに最初から卒1進1と縦に使う方針であれば車1進1と上がる必要はありません。ただ車1進1と上がらなければ紅は相七進九と上がらない(車1進1を省ける分、黒が手得になるため)ので、車1進1のあとの卒1進1は順番的には仕方の無い手順と言えます。
少し難しい話になったかもしれませんが、このあたりの黒の指し方を「機敏な方針転換」と捉えるか「方針がチグハグ」と捉えるかは好みの問題でしょう。
それではこれから具体的な手順を見ていきます!
(基本図③からの指し手)
- 相七進九 卒1進1
- 士六進五 卒1進1
- 兵九進一 車1進4
- 車二進五 砲2平1
- 砲八退一 車4平1
- 車九平六 砲1進5
- 砲八平九 砲1平5
- 相三進五 前車退1
- 車二進一 前車平2(下の画像)
10回合紅の車二進五は、車を横にも使える好位置に配置して相手を牽制する好手です。逆に黒の車にこの横線を抑えられてしまうと、卒3進1や卒7進1から馬の活用を図られてしまいます。
黒はその後砲2平1、車4平1と端に戦力を集中して突破を狙いますが、紅は12回合車九平六と端にこだわり過ぎず盤面を広く使うのが好手。
もし車九平六ではなく砲八平九だと一見黒の車を殺せたように見えますが、前車平3が切り返しの黒の好手です。相九進七、砲1進7と進むと紅の左辺が弱く黒ペースになります。
車九平六のあと黒は砲1進5から侵攻し紅は相が1枚欠けて駒損になりますが、その分馬の働きの差や車の位置・使いやすさの点で黒を上回っています。
まだまだその後の指し方次第ではありますが、上の画像の局面では若干紅が指しやすい展開といえるでしょう。
変化② 士六進五
士六進五は2番目に実戦例の多い手です。
これは変化①の相七進九と同じく守備的と分類される手で、無理して動かず力を溜めて相手が動いたら反発していこうという指し方になります。
また左の相が上がったあと、車九平六と左車を活用する狙いもあります。
それではこの変化を詳しく見ていきましょう。
変化②ー① 車4進5
これは黒の最も多い応手で、変化①ー①の時と同様に紅の弱点である左馬を攻撃する狙いです。
この手に対して伝統的に指されていて最も多いのはこの後でも紹介する相七進九の変化になりますが、最近では砲五平四と寄るのがかなり有力視されています。
これは次に相七進五と中央に形良く相を上げて砲の支えで左馬を守り、その後車九平六と左車を使おうという指し方です。
せっかく初手で中央に動かした砲をまた一手かけて寄るのは手損ですが、駒の連携や働きが非常に良いため1手の手損以上の価値があると評価されています。
この手は応用が効く場面が多いので、ぜひ覚えておいてください。
戻って今回紹介する相七進九ですが、この手に対してはすぐに車4平3と馬取りをかける手と、一旦車1平6と右車も肋道に持ってくる手に大きく分かれます。
違った展開になるので、分けて見ていきましょう。
変化②ー①ー① 車4平3
紅に車九平六とされる前に先に馬取りをかける手で、こちらの方が実戦例は多いです。
(基本図③からの指し手)
- 士六進五 車4進5
- 相七進九 車4平3
- 車九平七 車1平6(下の画像)
車4平3の馬取りには相を上がった効果で車九平七と受け、黒はこの部分に関してこれ以上手はないので、車1平6ともう1枚の車を肋道の好位置に移動させました。
これ以降紅には車交換を求める馬七退六、相手の動きを牽制する車二進五、右馬の活用を図るための砲八進二など様々な手があります。
変化②ー①ー② 車1平6
こちらは黒が右車の活用を優先した指し方になります。
(基本図③からの指し手)
- 士六進五 車4進5
- 相七進九 車1平6
- 車九平六 車4平3
- 車六進二 (下の画像)
紅は8回合で車九平六と車をぶつけますが、黒は車4平3を馬取りをかけながら交換を避けます。黒は車交換してしまう手もなくはないですが、3手かけて好位置まで移動させた車(車9進1、車9平4、車4進5)を1手しかかけていない紅の車(車九平六)と交換するのはあまり面白くないでしょう。
車4平3の馬取りに対しては今度は車六進二と上がって支えます。
以下黒の指し手は卒5進1とやや強引に中央から馬の活用を図る手や、車6進5とさらに紅にプレッシャーをかけていく手が有力です。
また紅は砲八退二から砲八平七と左馬へのプレッシャーを緩和していくような指し方で対抗する展開となります。
変化②ー② 車1平3
車1平3は車4進5に次いで実戦例が多い手ですが、初めて見る方はこの手の意味が良く分からないのではないでしょうか?
前に進めない馬のさらに後に車を移動するということで、私は初めて見たとき本の印刷ミスかと思ったのですが、もちろんそんなことはありませんでした。
とりあえず実戦の進行を見たほうが分かりやすいと思うので、早速見てみましょう。
なお車1平3に対する紅の応手は馬三進四と車二進五が有力ですが、より車1平3の意味が分かりやすい馬三進四の変化を紹介します。
(基本図③からの指し手)
- 士六進五 車1平3
- 馬三進四 卒3進1
- 兵七進一 馬3退5
- 車二進五 卒7進1
- 車二平三 象7進9
- 車三平六 車4進3
- 馬四進六 車3進3
- 馬六進五 象3進5
- 馬七進六 車3平4
- 馬六退七 車4進2(下の画像)
この変化の黒の指し手は妙手連発なのでならべるだけで面白いですよね。
まずは馬三進四に卒3進1と突き捨て、そのあとどうするのかと思いきや馬3退5と馬を引くことで3路の車の進路を開けます。紅は兵が横移動すると車3進6と馬を取られてしまうので車二進五と兵を支えますが、卒7進1とこちらも突き捨てるのが妙手。馬で車取りがかかっていますし、車の横利きが消えると車3進3と黒に車を活用されてしまうので、ここは車二平三の一手。
そして象7進9がこれまた面白い手で、車三進一だとやはり車3進3があるため車三平六の一手。以下車交換から綺麗にさばいて上の画像の局面まで到達します。
画像の局面の形勢は紅は車がまだ使えていないものの兵が一枚多く、黒の馬や象の位置がやや乱れているため若干紅ペースといえるでしょう。
ただ実戦で採用するかどうかは別として、この黒の芸術的ともいえる手順は並べて考える価値が十分にあると思います。
ぜひシャンチーファンの皆さんには知っておいて頂きたい布局です。
変化③ 馬三進四
馬三進四は3番目に多い指し方で、これまでの相七進九や士六進五とは違い攻撃的な指し方になります。
そのためこれまでに紹介した変化よりも局面が複雑で難しく、順手砲らしい激しい展開になります。
馬三進四に対する黒の応手は車4進7と車4平6の二つに分かれるので、順番に見ていきましょう。
変化③ー① 車4進7
車4進7は最も多い指し方です。
紅の左馬に圧力をかけながら、黒の右車の横への進路を確保した手になります。
(基本図③からの指し手)
- 馬三進四 車4進7
- 砲八進二 卒3進1
- 兵七進一 車1平6
- 馬四進三(下の画像)
黒の車4進7に対して紅は砲八進二が好手です。
右馬を支えるのと同時に、左馬を車九進二受ける余地を作った攻防の手になります。
黒は単に車1平6だと馬取りにならず紅陣に響きが薄いので、3路の卒を捨ててから車1平6と回るのがポイント。
紅は馬四進三と逃げますが、ここで黒の指し手が分かれます。
変化③ー①ー① 車6進3
こちらの方がより激しい変化です。
- ・・・・ 車6進3
- 兵七進一 馬3退5
- 砲八平五 車6平3
- 車九平八 砲2平4
- 車八進八 (下の画像)
12回合紅の砲八平五は左車を直車に使う進路を確保しながら、中央を補強した好手です。
これに対し車6平3、車九平八と駒取りをかけあいますが、ここで車3進3、車八進七の取り合いはその後紅の攻めのほうが厳しく紅優勢。
そこで一旦は砲2平4と避けますが、ここで馬を見捨てて車八進八と入るのが布局の非常に激しい一手。以下車3進3には車八平六と砲の背後に回り、駒を捨てての猛攻となります。
形勢的には若干紅がリードしていると思いますが、双方十分な研究と経験が必要な展開です。
変化③ー①ー② 車6進2
馬取りをかけると同時に、紅に好きなタイミングで馬三進五と砲を取られるのを防ぐ意味もあります。
- ・・・・ 車6進2
- 兵三進一 卒5進1(下の画像)
紅は馬取りを兵三進一と受け、それに対し黒は卒5進1と中央の卒を突くのが好手。
これで馬の進路が出来ましたし、兵七進一のような兵の侵攻も防いでいます。
以下紅は車九進一や砲八平七といった手が多く、いずれも複雑な変化となります。
形勢的には兵が2枚多く両方とも河を渡っていることを考慮すると、紅ペースと言えるでしょう。
ちなみに卒5進1に対し砲五進三と取ると、馬3進5、兵五進一、砲5進2、兵五進一、馬5進3のような進行で黒の駒の動き(特に馬)に活力が生まれ、若干黒ペースになります。
変化③ー② 車4平6
車4平6は2番目に多い指し方ですが、やや独特な指し方と言えるでしょう。
一度車9平4とした車をもう一度車4平6とするわけで、単純に考えて手損です(初めから車9平6とすれば一手で済むため)。
ですが戦線に飛び出ようとしている紅の馬の動きに機敏に合わせることで、攻撃に対ししっかりと力強く反発しようという意図があります。
(基本図③からの指し手)
- 馬三進四 車4平6
- 馬四進三 車6進2(下の画像)
車4平6の馬取りに対し、紅は馬四進三と卒を取りながら逃げるのが最も多い指し方です。
ここでは馬四進三の他にも馬四進六とさらに侵攻しながら馬取りをかける手もあり、以下黒は車1平3と馬を守って反撃を狙う展開となります。
黒の車6進2は馬取りをかけながら、馬三進五の砲との交換を避けた手で、ここではやや少ないですが車6進3という指し方もあります。
車6進2まで進んで紅は馬取りを受ける必要がありますが、ここで受け方が2通りに分かれます。
それぞれ見ていきましょう。
変化③ー②ー① 兵三進一
- 兵三進一 車1平4(下の画像)
兵三進一は最も自然な馬の守り方だと思います。ただ自ら馬が退却する進路を防ぐことになっていることや、河を渡った兵自体には支えがないことには注意が必要です。
黒は車1平4ともう一枚の車を使い、相手の出方を見ながら車4進3と紅の支えの兵を狙いに行ったり、車4進5と紅の弱点である左馬を攻撃したりする形で反発します。
紅は兵を取られては馬まで危険になってしまうので、車二進四や車九進一から車で兵を下から支えるような指し方が多いです。
上の画像の時点での形勢は、兵が一枚多くさらに河を渡っている分やや紅優勢でしょう。
ただいずれにせよ、やや動かしづらい三路の馬と兵がどうなっていくかが今後の勝負のポイントになりそうです。
変化③ー②ー② 砲五平三
砲で馬にヒモをつける砲五平三も有力です。
中砲を移動させるので攻撃力は減りますが、馬と砲の間の兵は相が上がればしっかり守れますし、何かあった場合は馬が退却する余地も残っているので、こちらの方がより安全な馬の守り方と言えるでしょう。
- 砲五平三 卒5進1
- 士六進五 卒5進1
- 兵五進一 馬3進5(下の画像)
砲五平三に対し黒は相手の弱くなった中央を果敢に攻めていきます。
対して紅は士が上がって備えるという展開です。
黒は馬3進5と馬の活用も見せつつ次に砲五進三もあるので好調に見えますが、紅は兵1枚得していますし、相七進五と上がった形はそんなに簡単には潰れません。
形勢的には互角か若干紅ペースといったところでしょうか。
先ほどの兵三進一よりも中砲が移動する分受け身になりやすいので、穏健な人向きな指し方かなと思います。